先週の日曜日、ペルーから遊びに来ているスペイン人の友だちドラとサン・テルモの骨董市に繰り出した。彼女は、ここで買い物するのが大好きで、ペルーに引越す前にもたくさん骨董品を買っていった。
朝10時半ごろ、ドラが滞在中のミクロ・セントロ(中心街)まで歩いて出かけた。日曜日の朝は人通りもほとんどなくて快適と思いきや、アパートの前で呼び鈴を鳴らしていると、酔払いか薬中で舌がまわらない男の子が絡んできた。すかさず猛ダッシュ。遠くからようすを見ていると、こんどは歩いてきた二人連れの女の子に絡みはじめ、その子たちも走って逃げていった。朝っぱらから物騒なこと。夜はどんなだろうと思ってしまう。 というわけで、この日はちょっと嫌な始まり方だった。
サン・テルモまではタクシーを拾うことにした。陽気でおしゃべりな運転手、観光客っぽいわたしたち(実はふたりともそうじゃないのだが)を乗せるとサン・テルモへご案内いたしましょう、ととても親切。ところが、オベリスコあたりでメーターの上がり方が早いことに気がついた。ほんの10区画ですでに25ペソまで達している。隠しボタンでチャカチャカとメーターを上げているに違いない。そんなときはすぐに降りるのが良策なのだが、いろいろと事件の多い昨今のブエノスなので、しぶしぶ30ペソ払ってタクシーを降りた。後で別のタクシーに聞いてみたら、多くて半額だろうとのこと。
サン・テルモに到着すると、ドラが店のひとたちと気軽におしゃべりし始めた。こんなに大勢観光客がつめかけるなかで、しっかり顔を覚えているのだから、彼女はかなりインパクトがあるのだろう。わたしの知る限り、ドラはすでに数回は、こういう店で騙されている。善人との出会いももちろん多いのだけれど、悪人との出会いもかなりあったようだ。偽物の宝石をつかまされたり、法外な値段で売りつけられたり、引越し前に買った家具を梱包したまま荷物に積んでペルーに持って行き、向こうで開けてみたところ、おんぼろ家具にすり替えられていたり。騙すより騙される方が良いなんてよく言うけれど、こう度重なるとどうなんだろう。 サン・テルモの骨董市には盗品が多いという噂もある。去年、警察署で一緒に展示会をした画家が教会に寄付した作品が盗まれ、その数ヵ月後、サン・テルモの骨董市を歩いていて偶然みつけたというエピソードがある。
わたしはブエノスに住んでいながら、サン・テルモにはもう何年も行っていなかった。デフェンサ通りは露店でぎっしり。ところどころでジャズや南米音楽なども演奏していて、なかなか盛り上がっていた。アート・ギャラリーもさることながら、面白い南米素材のグッズもたくさん並んでいる。いくら詐欺まがいの商売が多いとはいえ、ブエノスに来たら寄らないわけにはいかない魅力的な場所である。
帰りは、ボルヘスでやっている展示会に顔を出して、帰途、またタクシーを拾った。タクシーに対して用心深くなっているわたしたち。停まってくれたタクシーのおじさんの顔をドラが近くでじっと見極め、このひとなら大丈夫だと思ったのかなにも言わずにドアを開けて乗った。よくあることなのか、それとも、わたしたちの意向がわかったのか、「わたしは善人の顔でしょうか」と尋ねるおじさん。朝のいきさつを話すと、そういう輩がいるためにブエノスのタクシー運転手の評判が悪くなって困ると嘆いていた。
ドラは、ひとを疑ってかかることはどうしてもできないのだという。いくら騙されてもサン・テルモをこよなく愛するドラだった。
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