2010/02/08

Where are you from?

 

 ヴァカンスのあいだ、ハワイでは、どこへ行ってもこう聞かれた。

 Where are you from? 

 常夏の楽園ではあるが、ホノルルは立派な国際都市でもある。ハワイからブエノスに戻ってきたとき、コスモポリスであるはずのブエノスが世界の片隅に思えた。足の踏み場もないほど混みあったワイキキ・ビーチでは、そのひとりひとりがすべて違った国籍と文化的背景を持っているといっても過言ではない。そこは、まるで平和な国際文化交流の舞台のようだった。

 だから、どこに行ってもまずは、Where are you from? と聞かれる。そのたびに返事に困った。住んでいるのはアルゼンチンだけれど、国籍となるとひとことでは説明できない。ところが、聞いてくる相手もそのエスニック・バックグラウンドは複雑とみえて、どんな答えが返ってきてもそう驚きはしない。祖国から遠く離れて長いひとばかりなのだ。

 今回、わたしたちは、あるチャイニーズ・アメリカンに出会った。カンボジア生まれ。幼少で家族とアメリカに亡命した彼は、アメリカンとして育った。学校を卒業した後、家業を手伝ったりしていたが、What's my life? と問い直し、じぶんの人生をじぶんの手でゼロからやり直そうとハワイにやって来た。オープンマインドとチャレンジ精神というのが彼の哲学だ。

 では、なぜハワイだったのか?

 人種の坩堝、文化の混在、メインランドと同じように社会問題はやはりある。でも、それよりも圧倒的に大きな力を振るっているものがここにはあった。せこせこしたものをすべて黙って呑み込んでくれるものがあったのだ。だから、アイロニックにならずに済むし、ひとともストレートに笑顔で向き合える。

 もうひとつつけ加えるとすれば、間近にアイランダーたちの生き方を肌で感じることも、潜在的に生き方を変える手助けになっているのかも知れない。強くていつも正しいアメリカが島の小さな文化と触れ合ったとき、What's been my life? と問い直すことになる。じぶんたちの価値観だけで世界は動いていると思っていたひとびと。豪邸を建ててサンセットさえも独り占めしていると勘違いしているひとびと。自由の代償に孤独を引き受けることになってしまった彼ら。そんな彼らの傍にある小さな文化は、悠久の歴史の鼓動を足の裏に感じ続けている。大地に繋がっているのだ。

 南洋の植物を見ていると尖がったものがないのに気づく。葉っぱも枝もゆるやかに大地に向かって垂れている。防衛のために硬直したり攻撃的になったりする必要がないのだ。強風にもしなやかに揺らぐ。バニアンのキオーマ(葉の茂み)は、大きな森のように広がる。その緑の塊はいくつもの幹に支えられているが、上に伸びる空間がなくなってしまった枝たちは、方向を変えて大地へ向かう決意をした。それが、キオーマをさらに育てることになる。

 Where are you from?

 わたしは、いつになったらMother Earthと、こころの底から答えられるようになるのだろう。